歯科の臨床教育の中では、歯科研修医は指導医の手技を「見て学ぶ」すなわち「見学」が長く重宝されてきました。しかし、「見る」ことで得られる情報は決して多くなく、「見ているだけ」の時間として浪費されている現状があります。特に歯科治療は、口腔という半閉鎖空間に位置し、直視することが困難である特性があるため、医科と比較すると顕著です。よって、視覚に頼らない機器を介した指先がもたらす触圧感覚が重要な情報となります。しかし、画像などの視覚情報と異なり、指導医と研修医間で触圧感覚を共有することは困難です。よって、実際の患者様に「触れて」学ぶことが最良の教育方法となりますが、その実現が容易ではない社会的背景があります。そこで、実際の患者様に触れる前に、指先に伝わる感覚を会得出来るシステム・シミュレータや模型の開発を目指して研究開発を行ってきました。
フォーズゲージの上に顎模型を装着したシステムを活用し、歯科技能時に模型に加わる力の記録を行ってきました。そこで得られた力のデータを、人工知能技術の1つである機械学習用プラットフォームに入れ、技能の結果(治療効果)を教師信号として解析を行います。冠を装着する動作で解析を行った場合、85%の正答率で技能評価を行うことが可能となりました。模型上での動作時に加わる力を人工知能で解析することで、採点を行うことの出来るシミュレータ開発に繋がることが期待できます。
知財:特願2020-119183 歯科技能評価装置、及び歯科技能評価プログラム
歯科技能の中で習得難易度が高い動作に抜歯があります。出血を伴う処置であることから、経験が少ない歯科医師には難易度が高くなります。そこで、反復的な練習によって「指に感覚を植え付ける」ことを目指した抜歯技能シミュレータの開発を行っております。本研究開発は、いわて戦略的研究開発推進事業にて、岩手県上閉伊郡大槌町の株式会社ササキプラスチック様と実施しました。抜歯対象の歯に加わる力を、特殊なセンサを用いて詳細に記録可能なシミュレータ模型を作成し、人工知能技術を活用することで理想的な力加減を可視化出来るようになりました。そして、理想的な力加減を再現出来る、訓練に特化した模型の作製に展開させています。