岩手医科大学歯学部では、3年生の学生を対象に研究実習を伴う配属実習を実施しております。病態生理学分野では、配属された学生さんが楽しみながら研究の一端を経験できるように毎年実施内容を変更しながら企画して実施しています。
2021年度 3位入賞
筋電図は、電極だけでなく小さな信号を増幅させるアンプも小型化されてきました。さらに、Bluetoothなどの通信技術を適応すること無線化も実現出来ています。すなわち、ウェアラブルデバイスとしての記録が可能なツールとして注目されています。病態生理学分野では、飲み込み易さを筋電図記録から導き出すことを目的に、嚥下関連筋である舌骨上筋からの筋電図記録データを用いて、多層ニューラルネットワークモデルによる解析を、情報工学を専門とする研究者と取り組んできました。入力データとしての筋電図データは、高速フーリエ変換(fast Fourier transform;FFT)による周波数解析データを対象としました。その結果、官能検査結果を教師信号として解析では、一定の正答率で飲み込み易さを筋電図から検出出来ましたが、より高い精度を求めて、畳み込みニューラルネットワークモデルおよび多層ニューラルネットワークモデルの二つを組み合わせたモデルを採用するなどしてプラットフォームの改良に取り組んでおります。基礎科学演習では、プラットフォームの充実を図るためのデータとして、様々な食材を準備し、等量に分けて被験者に嚥下させ、嚥下時に筋電図データを取得することを目指しました。担当学生さんには、食材選びからお願いしました。実際に、日ごろ学生さんが買い物に行く近隣のスーパーで、先入観なく、友だちと一緒に食材探しを行いました。納豆・さつまいも・プルーン・玉子・ケーキ・バナナなど、たくさんの食材を準備しておりました。それを一口で食べれるサイズに切り、実際に筋電図記録を行いました。しかし、1口で飲み込むというのが容易ではない食材が多いことに担当学生さんは気が付きました。
そこで、飲み込み易さ、または飲み込みにくさを研究する際の適した食材について議論を行い、
①性状が類似していること
②作成が簡単であることの2点に注目して論文検索を行いました。
その中で、歯科基礎医学会誌(39:25-33-1997)にある“摂取する食品の付着性がヒトの咀嚼行動に与える影響 塩澤光一先生 他”に用いられている“米デンプン粉”に注目し、スーパーで販売されている“上新粉”を用いて研究を行うことにしました。
上新粉5%(重量%)~20%になるように計量した上新粉を蒸留水で練和し食材を作成しました。その際、重量は1口大で飲み込めるように調整しました。これを、舌骨上筋筋電図を装着した被験者に嚥下させ、嚥下時の筋電図記録を行いました。食材を嚥下した被験者は、上新粉5%と10%は飲み込み易く、15%と20%の上新粉は飲み込む際に踏ん張る必要があるなど、飲み込みにくいという評価を得ました。実際の筋電図解析では、上新粉の濃度が高くなれば必要となる筋活動量が有意に増加したこと、また筋活動時間が有意に長くなりました。濃度に依存した活動量の増加と活動時間の延長が見られました。
上新粉を使ったデータを活用することで、機械学習用のプラットフォームの充実が図れることが期待できる結果でした。