生理学講座 病態生理学分野
生理学講座 病態生理学分野
病態生理学分野では、小児歯科学・障害者歯科学分野との共同研究を、公益財団法人JKAの補助事業にて実施しております。
公益財団法人JKA WEBサイト https://www.jka-cycle.jp/
この事業は、競輪の補助を受けて実施しております。
2024年度 研究内容
「安定した食提供を実現する新たな小型粘度計の開発 補助事業」代表研究者：黒瀬雅之 共同研究者：小林琢也, 森川和政, 加藤哲也,齊藤桂子, 熊谷美保
2023年度 研究内容
「ペダリング動作向上のための多軸力覚センサを活用した足裏圧測定インソール開発」代表研究者：熊谷美保 共同研究者：黒瀬雅之, 森川和政, 加藤哲也、大橋祐生
自転車の走行は、下肢（足）筋が収縮することで生み出された力をペダル→クランク→チェーン→タイヤへと伝達し、地面に対して仕事を行うという特性があります。よって、ペダルの“こぎ方”のよっては、下肢（足）筋が収縮することで生み出された力が適切に地面に対する仕事に反映されないことが生じるため、ペダルの“こぎ方”は自転車競技においては重要な要素です。さらに、高速で走行する自転車で生まれる空気の抵抗は、速度の二乗に比例して増加するため、自転車競技での高速度での走行では、空気抵抗を低減するための“姿勢”が同時に重要とされています。自転車競技の向上という視点からは、ペダルに上手に力を伝える“こぎ方”と空気抵抗を小さくする“姿勢”という２つから構成される“ペダリング動作”が競技成績に大きく影響を及ぼすとされています。
自転車競技はヨーロッパを中心に人気のあるスポーツであり、日本においても知名度の増加に伴い、サイクリングを楽しむスポーツサイクリスト層は増加傾向にあります。これに伴い、速く走ることを目指したトップ・プロが監修した講座の開設や動画などが多くのアクセス数を稼いでいますが、ペダリング動作に関しては主観的且つ定性的な表現が多いのが現状です。そこで、走行中のペダリング動作の“今”を見えるようにし、修正点をその場で評価できるシステムを目指して研究開発を行いました。“今”をリアルタイムに評価することで、自転車競技者の動きへの有用なフィードバックを実現し、自転車競技向上に多いに繋がることが期待されます。
ペダリング動作では、下肢（足）筋が産み出すパワーを無駄なく自転車の推進する力に変換することが求められます。無駄なく推進する力に変換する変換効率の“見える化”は競技力向上に直結すると考えられます。そこで、ペダルに触れる足裏の荷重を、インソール内に配置した多軸のセンサを介して足裏圧として検出し、リアルタイムに確認出来るシステム開発を目指すことを本事業の目的としました。
現在までに、競技成績に大きく影響を及ぼすとされるペダリング動作を数値化することを目指した技術開発は検討され、パワーメーターとして市場展開されているが、ペダルに加わる力のみでは競技能力向上には十分な情報とは言えません。そこで、走行中のペダリング動作の“今”を色んな方向から“見える化”し、その動作を瞬時に評価可能なシステム実装を目指して研究開発を行いました。インソール内に配置した多軸のセンサからのデータは、Bluetooth接続したスマートフォンアプリやサイクルコンピュータにデータ送信をすることで、リアルタイム評価を実現し、競技者へのフィードバックに繋げます。
本研究開発では、すでに開発を行っていたセンサ入りシューズを改良することからはじめました。現在まで開発を行ってきたシューズは、歩行時での足裏圧を測定することを前提に設計しており、自転車走行時に加わると想定される圧（荷重）は歩行時よりも大きくなることが想定されるため、既存シューズからの大幅なメカ設計変更が必要となります。ただし、単純にセンサが高負荷に耐えられるように設計するとインソールが硬く、厚くなり、ペダリング時の違和感やエネルギーロスに繋がってしまうため、バランスを取った設計が求められました。
そこで、インソールのメカ設計開発として、
�‖�裏つま先部分の母指球、小指球、親指付近に 3 個以上のセンサを搭載する
�▲撻瀬螢鵐飴�の足裏圧でセンサが破壊されないこと
��インソール厚みは 7mm 以下とする
�す眤�度(50km/h)に耐える耐久性を確保する
�ゾ楮戮焚鮴呂鮗存修垢襪燭瓩�500Hzサンプリングでの記録を可能とする
を開発目標に設定しました。
6軸力覚センサ(タッチエンス社：ショッカクチップ 6DoF)と特注したフィルムタイプ 3 軸ショッカクチップ を内蔵したセンサ入りインソールを完成させました。インソール部に組込まれた6軸力覚センサで、足裏及び足指で発生する6軸方向の力を、フィルムタイプショッカクチップで足指部の3軸方向の力を計測が可能としています。センサデータは、基板内部のE EPROMに一次保存した後、Bluetooth無線通信にてPCにデータ送信されます。 開発を委託したPCソフトウェアにて、リアルタイムでのセンサ出力の可視化や、データ取得と保存可能なシステム構成としました。足裏圧のデータは 2 msec (500Hz) 周期のサンプリング周波数で取得可能です。
足裏圧力測定インソールに取り付けられた各センサからの信号や制御ユニット内に保存された計測データは、Bluetoothを介してPCに送信します。記録用ソフトウェアにおける仕様は、以下に示す仕様としました。
�� 計測開始〜計測終了（計測データ保存中を除く）：足裏圧力測定インソールから出力されたBluetooth信号(センサ信号)をリアルタイムにグラフィカル表示する。
�� 計測データ保存中：速いサンプリング周期でのセンサ計測を行うため、この間の測定データは足裏圧力測定インソール内にあるメモリに保存する。（この間の Bluetooth による計測データ送信されない）設定された時間になると計測データ保存は自動的に停止されます。
�� 保存された計測データ読込、PC保存
足裏圧力測定インソール内のメモリに保存された計測データを Bluetooth 経由で読み出しを行い、データはPCにcsvフォーマットで保存可能とする。
ロードレース優勝者と自転車競技未経験者を対象に、試作したインソールをはめこんだシューズを履いてもらい、トレーニングローラーに装着したロードバイクにて20km/h、40km/h、60km/hで走行させて実験記録を行いました。ロードレース優勝者と自転車競技未経験者の40km/hでの10分間走行時の記録データを比較しますと。自転車競技経験者では、左右の足で踏みこんだ時にバランスの良い圧が記録され、さらに圧ベクトルの方向も進行方向に一致した前方を向いていました。これに対して、自転車競技未経験者では、左右の足で踏みこんだ時に圧の大きさ並びに方向性のバラツキが大きく、圧ベクトルの方向も進行方向とは異なる後方や側方に向くなど一致しませんでした。
技能や経験の差が、開発したシューズと記録用ソフトウェアではっきりとします。自転車競技におけるタイムの違いを、リアルタイムな計測によって”見える”化できることが期待できます。
本研究開発では、普段の移動手段として自転車を使用する方ではなく、スポーツサイクリストとして活動している方にとって有用なシステムの開発を目指しました。スポーツサイクリストは、速く走るために切磋琢磨しており、特に言葉では理解が困難であるペダリング動作技能向上に向けたトレーニングの指標となるツール/デバイスの存在は高いニーズがあると言えます。本補助事業によって開発を行った足裏圧のリアルタイム評価を実現するシステムは、サイクルコンピュータと連携させることで、幅広いユーザのサイクリングダイナミクスのデータとして提供することが可能となります。これにより、ユーザの弱点や強みの特定・改善に向けたトレーニングの提案に繋がるかもしれません。我が国の自転車競技のレベルアップに貢献することが、本補助事業を実施した我々の願いでもあります。その願いの一歩を叶えてくださいましたJKAには感謝を申し上げます。
2022年度 研究内容
2022年度 機械振興補助事業 研究補助 個別研究に採択されました。
「安心・安全な食提供を実現する在宅で使用できる小型粘度計開発」
代表研究者：黒瀬 雅之 共同研究者：森川和政, 齊藤桂子, 熊谷美保, 小林琢也, 成田欣弥
2021年度の研究成果と2022年度の研究成果を、特許出願（特願2022-148576 とろみ度測定装置及びとろみ度測定方法, 出願人：学校法人岩手医科大学,タッチエンス株式会社）しました。
特許出願しました粘度計測の原理を組み込んだ試作を開発しました。これを用いて、既存のレオメータ間で非ニュートン流体（市販されている”とろみ調整食品”）での粘度計測の精度検証を行った結果、相関係数が0.9を超えるレベルでの高い精度での粘度計測を実現しました。
特許出願を行った原理を用いた試作器での粘度計測では、既存レオメータでの計測と比較して高い精度の粘度検出を実現しました。対象としたのは、非ニュートン流体ですので、この原理を用いて、実用化をめざしたモデル開発を目指しました。
2021年度に開発を行ってきたシステムは、システム有用性の検討を主たる目的としてきました。そこで、最も太い部分の直径が400mm程度もあり、従来型の粘度計と比較すると小さいサイズですが、“小型”粘度計と呼ぶには十分ではありませんそこで、本年度の事業では、設計した原理はそのままに、小型化並びに防水化を進めることとしました。
小型化：測定原理はそのままに、最大直径を40mmから30mm、溶液に触れる計測部位は、最大直径が30mmから20mmとする25％程度の小型化の目標値としました。昨年度に試作した初期モデルの小型化では、モータ駆動部や回転ー直線変換機構を組み込むスペースが十分に確保出来ないため、機構部分の再設計を行うこととしました。
物質の粘度の度合いを示す粘度のSI単位はPa·s（パスカル秒）です。レオメータや回転式粘度計で溶液の粘度として表記される単位もPa·sが主に用いられます。試作粘度計は、6軸触圧センサからの出力を検出しているため、実際の測定結果は、垂直・水平・前後方向の出力（Fx, Fy, Fz）ではN（ニュートン）となり、回転モーメントを出力するMx、My, MzではNmm（ニュートンミリ）となり、粘度（mpas）を直接的に検出しているわけではありません。キャリブレーションを実施することで、出力を実際の粘度値とすることも可能ですが、将来の在宅での使用を念頭においた場合、正確な粘度をユーザは求めておらず、大まかな基準（5段階で評価）でも食の安全は担保されると考え粘度への変換は行わないようにしております。
多くの種類の市販されているとろみ調節食品を試作粘度計を用いて計測した結果、試作粘度計からは、攪拌羽根に加わる3方向の力（Fx Fy Fz）と3方向のモーメント(Mx,My,Mz)の計6種類の出力値が得られています。Mx,Myの出力値は粘度増加に比例して増加したのに対し、Mzは粘度変化に比例した出力は得られませんでした。Fx Fy Fzは粘度増加に比例した出力値の増加が見られました。それぞれの方向の力と、B型粘度計での検出値との相関を見ると、Fxでは0.017 Fyでは0.001と非常に低い相関を示しましたが、Fzは0.7006と高い相関を示しました。Mxは、高い出力値が得られるだけでなく0.7445と高い相関が得られました。また、Myは0.6726 Mzは0.4925の相関を示しました。これらのことから、高い出力値であり、尚且つ高い相関を示すMxが有用な解析パラメータとなることが示唆されました。この結果は、昨年度に開発を行った粘度計と類似した結果です。
粘度計の防水性を付与するために、攪拌棒とセンサ間にベローズを入れる設計としました。ベローズは、3Dプリンタでの造形を行いますので、まずシリコーンライクゴムを用いて造形を行いました。作成は容易でしたが、耐久性に大きな課題がありました。そこで、金型を作成し、シンコーンゴムを用いて造形を行いました。この作成方法で作成したベローズは、1日中稼働させても問題のない高い耐久性を有しました。
試作粘度計は3Dプリンタ樹脂で作成していますので、ベローズの部分やセンサ基板の側面、そしてアンプ基板部のカバーなど、水の侵入が予想される部位が存在ししています。そこで、水の浸入が想定される部位に防水用の接着剤を塗布しました。
以上の対策を行い、通常の水圧の水洗いを連続10回行った後に、通常の使用での粘度計測を実施しましたが、粘度計測の精度には影響を及ぼしませんでした。
2022年度での研究助成では、小型化と防水かという、将来の臨床応用を考えると必要不可欠な2要素を組み込むことを目指して開発を行い、目標値に達することができました。
2021年度 研究内容
2022年度 機械振興補助事業 研究補助 若手研究に採択されました。
「嚥下障害者への安全な食提供に繋げる“トロミ度”検出機器開発」
代表研究者：齊藤 桂子 共同研究者：黒瀬雅之, 森川和政, 熊谷美保,
嚥下障害がある方がおられるご家庭では、水分を取るという生きるために必ず必要不可欠な行為が、誤嚥を起こす可能性が高いこともあり、気を遣われていると思います。トロミ剤を使われることも多いかと思いますが、メーカーの違いで作り方が全く異なり困惑させていることも多いかと思います。そこで、安心して安定した“とろみ”がついた食事を提供できるように、ご家庭で簡単に“とろみ”度が分かる機器を提供しようと思っております。そのために、各家庭で導入して頂ける安価で、そして何よりコンパクトで使いやすい粘度計を開発することを目的として研究です。
食物のトロミは粘度とほぼ同じ物性です。粘度とは、食品などの流体を動かそうとした際の動かしにくさを数値化した単位です。この粘度という数値を計測するのに用いるのが粘度計となります。現在、粘度計には様々な種類が存在し、それぞれは用途によって使い分けがされています。大きく分けると、�〆抓票闇甘抃廖´⇒邉綣闇甘抃廖´２鹽昭闇甘抃廚裡骸鑪爐�あります。
�〆抓票闇甘抃廚箸蓮�言葉通りの細い管に測定した試料を通して、その管の中を流体が流れる時間と管の両端の圧力差から粘度を計測しています。細い管の中を流体が流れてくれないといけませんので、あまり粘度の高い食品などの計測には向いていません。
�⇒邉綣闇甘抃廚箸蓮⇔�れがない状態で測定した試料の中に球を落下させます。この時の落下するまでの時間を計測して粘度を測定します。細管式粘度計とは違い、比較的粘度の高い食品の粘度計測を得意としています。
�２鹽昭闇甘抃廚箸蓮�回転体が流体から受ける抵抗を回転トルクから読み取って粘度計測を行っています。回転体の形により、共軸二重円筒型や単一円筒型回転式粘度計（いわゆるB型）、コーンプレート型（いわゆるE型）等があります。今、一般的に広く普及している粘度計はこの形状です。回転体を回転させる回転数を可変することで、様々な試料を対象とした粘度計測を実現しています。この回転式粘度計で、回転数を自在に制御することで詳細な粘度解析を実現しているのが、レオメータとなります。
回転式粘度計（B型やE型）、そしてレオメータは、非常に精度よく粘度を計測出来ますが、どうしても高価な機器となります。なかなか、家庭に導入することに対してのハードルは高いです。様々なアプローチで、回転式粘度計の小型化は進められてきました。その結果、小型化・軽量化は進んでおりますが、まだまだ簡単に導入出来る価格帯にはなっておりません。
そこで、従来までの粘度検出方法とは異なる手法での計測方法の確立を目指して原理試作を開始しました。上の図は、その試作品のデザインを示します。全長は150mm、直径は30-40mmの筒の中に、攪拌棒を回転させるモータを埋め込んだ形状としています。原理試作ですので、測定結果は、ケーブルを介してパーソナルコンピュータにUSB接続で入力させ、専用のソフトウェアで結果をみられるようにしました。
実際の粘度計の検出精度は、試作器と共同研究者の研究室にあるレオメータ（MCR 702e MultiDrive,Anton Paar: https:// www.anton-paar.com/ jp-jp/ products/ details/ rheometer-mcr-702-multidrive/）の両者を用いて比較することにしました。Anton Paar社のレオメータは、世界最高峰クラスの精度を誇るレオメータです。このレオメータで検出された値にどのくらいまで近づけることが出来るのか？が本研究開発における目標達成に指標です。
測定対象とした試料は、水・牛乳・グリセリン・各種市販されているトロミ剤を溶解させた溶液です。対象とした溶液である水・牛乳・グリセリンは、ニュートン流体と呼ばれ、与える力によって粘度の変わらない流体です。他に蜂蜜なども該当します。これに対して、蒸留水を溶媒としてトロミ剤を溶解させた溶液は、非ニュートン流体と呼ばれます。与える力の掛け方によって粘度が変化する流体のことで、バターやマーガリンなど、日常私達が口にする食品のほとんどは非ニュートン流体です。よって、非ニュートン流体の粘度を安定して計測出来ることが粘度計に求められる条件です。